Death To False Tanto

雑食な自称音楽好きが自己満でアルバムレビューなどをしていきます。ブログタイトルはWeezerから

遊び尽くせ!中学生活!私立恵比寿中学『穴空』

f:id:tantakatant:20190208115333j:plain

2016年4月20日に発売された私立恵比寿中学3枚目のフル・アルバム『穴空』。悔しくも8人最後の音源の入ったアルバムになってしまったが、今回はこのアルバムのコンセプトについて考えていこうと思う。

…なんで今更???と疑問に思ってる方も多いと思いますが、完全な気まぐれです。いつかは書きたかったけど、先延ばし先延ばしになってて今になりました。悪しからず。

穴空のジャケットについて言及した箇所が別のブログであるので、ジャケットについては割愛。*1

tantakatant.hatenablog.com

 全身全霊の学園生活

さて本題に入ろう。
このアルバムは中学生らしさ全開の悪ふざけ満載かつ、学生生活の1年間をテーマとしており、まるで私立恵比寿中学という学園の中へ飛び込んだような1枚となっている。

まず、エビ中のアルバムではおなじみのInterludeから始まる。アルバムタイトルである”穴空(アナーキー)”*2の名のとおり、「埋めてあげたい(Interlude)」は混沌を極めている。

音楽というよりYMOのアルバムである『Service』の寸劇のような曲で、皆好き放題喋っていたり、効果音もエビ中自身が声で表現していたり、シベ少土屋さん*3脚本の茶番劇のため、ストーリーもハチャメチャな内容だ。

海辺で前作『金八』の思い出に浸っていたり、車で誘拐されたり、様々な季節の音がしたり、猫の館に連れられ、猫の化け物と真山が化したり…。

基本的に訳が分からない。まあ様々な季節の音が聞こえるのは、これから四季折々のエビ中が出てくるぞ!というリードなのだろうと思う。

また、猫の化け物と化した真山の猫シャウトから「ゼッテーアナーキー」の最初のドラムに繋がる流れは何度聴いても鳥肌が立つほど気持ちが良い。

2曲で1曲と言っても過言ではないほど、曲の相性もいい。どちらもおふざけ全開の曲で、内容も8人が思い思いに自分の出席番号を叫んだり、〈oioioi! 〉と叫んだりと『穴空』という名に相応しく、天真爛漫でパンキッシュな序曲となっている。

MVでもライダースを羽織り、大暴れするエビ中が映され、アナーキーエビ中が確認出来る。

youtu.be

恋する乙女の春休み

そして「春休みモラトリアム中学生」で春休みが始まる。先程までの勢いを残しつつ〈この気持ちまるで素数 にーさんごーなな!! 絶対に割り切れないよ〉など学生を彷彿とさせるワードと少女の恋する気持ちを絡ませ、〈新学期どぉなっちゃうんだろ 何がなんでも君と同じクラスがいい〉*4と新学期への不安感を歌い上げている。

春休みに入り「ポップコーントーン」で〈どんなに頑張っていてもあなたが見ていてくれなきゃいつまでも踏み出せなかったずっとありがとう〉そして〈頭からポップコーン弾けてしまう〉とポップコーンが弾けるように気持ちも溢れてしまう。*5そうして悩み過ぎた末か「面皰」が出来てしまう。

今までは焦って暴走気味だったが、面皰が出来たことによって冷静になったのかは定かではないが〈ニキビが治ったらわたしとデートをしてくれますか?〉と今までの焦燥感が無かったかのように前向きで、ラブリーに君のことを想うようになる。

youtu.be

 待ちに待った新学期、そして夏

そして新学期が始まる。ヒャダイン×エビ中の遊び心がいかんなく発揮されているエビ中の自己紹介曲である「エビ中出席番号の歌 その2」。

既存曲に「エビ中出席番号の歌 その1」という曲があり、それが前学年の出席確認だとしたら、進級をしてクラス替えをし、新しいクラスになったエビ中の新しい出席確認をした新学期の始まりを感じさせる。

新年度でてんやわんやしているうちにあっという間に夏が来る。

「マブいラガタイフーン(Interlude)」では夏休みに浮かれ、夏休みの計画をニヤニヤしながら練っているエビ中メンバーの様子が伺える。*6
〈何するどこ行く私の夏 チャリride onしてまずは友達んち〉
夏休み初日のウキウキ感が、歌声と歌詞でこちらまで伝染してきそうなくらい底抜けに明るく、夏休みの中学生らしいワクワク感が詰まっている。

〈お盆もすぎたら 寂しくなるのかもね ただ今は思い出を増やそう 笑顔沢山交換してさ さあ夏がやってくるよ〉「面皰」で想っていた彼とは上手くいかなかった様子…。けれど、クヨクヨはせずに仲の良いクラスメイトと共に海に遊びに来て、イケメンを陰から覗いて噂したり、グラマラスな女性にウキウキ・ドキドキ思い出作りをする「夏だぜジョニー」。

youtu.be

「MISSION SURVIVOR」では最近夏の恒例行事である夏フェスに仲の良い8人が参加して、〈パーリーピーポーアゲピーポー〉になって暴れ回ってる…いや実際はイエーイ!くらいを言ってみて、こじんまりと盛り上がる8人。*7

そして夏休み終盤に開催された花火大会で情緒的になる「ナチュメロらんでぶー」。「面皰」で想っていた人とは別人なのか?それとも別のメンバーなのかは定かではないが〈ひと夏の恋なんてしたくないな…〉と恋愛が成就し、大人な一面も見せたりする。周りのメンバーも応援するなどと夏休みを満喫するエビ中が想像出来る。

食欲、そして芸術の秋

夏休みが明け、学校が始まる。課外授業でお寺にでも行ったのか鐘の音やカラスの鳴く声、そして砂利道を歩く音が聞こえる。そんな歩く音と共に懺悔だったり、笑いながらふざけた季語もないヘンテコな俳句を謳い上げる。秋の夕景が思い浮かぶような「あな秋いんざ夕景(Interlude)」

音楽の授業でQUEENボヘミアンラプソディーを学び、それに影響されたのか分からないがとんでもないモノを創り上げた「ポンパラペコルナパピヨッタ」。

youtu.be

オペラ?にプログレ?とにかくやりたい放題な音楽。ノイズが流れ〈…あれ?何調べてたんだっけ?あっ、お風呂入らなきゃ〉と。そして突然無音になったと思ったら〈…メンドクサーイ!〉などと突拍子もないことを現代風の言い回しで歌い上げる。

食欲の秋ということでお菓子、主にサブレ*8を主張した、チャーリーとチョコレート工場を彷彿させるような映像があったりする。

youtu.be

ameblo.jp

他にも映画トータル・リコールのこのシーンだったり

f:id:tantakatant:20190924082043j:plain

Kraftwerkを彷彿とさせるようなミキサーでなにか*9を混ぜている絵が有ったりと、色々な芸術作品を織り交ぜたような芸術作品を創り上げている。

f:id:tantakatant:20190924082832j:plain

後悔、恋、そして決意。

何年も一緒にいれば喧嘩だってする。けど中学生だからうまく言葉が出てこない。変なプライドが邪魔してしまう。〈ごめんの一言が伝えたいだけなのにな〉。でもチャンスは何度でもある。「お願いジーザス」〈また明日もその次の日も例え挫けても何回も何回も〉

「全力☆ランナー」もまた恋の話である。「面皰」の子も「ナチュメロらんでぶー」の子も季節柄活発になっていただけなのかもしれないが、そもそも全員別人なのかもしれない。

そうだった場合「全力☆ランナー」の子は特に奥手な印象がある。他の子はどちらかというと能動的だったが〈皆で一緒に帰った日 自販機ホットのミルクティー“温まるよ”って君がくれた小さな宝物〉や〈自然にわたしの頭をポンポン叩けるとか君の態度はズルいよ〉と本人に何かアプローチするわけではないが、気持ちはドンドンと高まっていき、想いを発散させるべく全力で走り出していく。そんな少女の白い息が見えてきそうな一曲となっている。

〈風は強いドキドキの朝だなさぁ行かなきゃ勝負の場所へ〉この子達は受験生なのかもしれない。受験ではなくても何かを成功させたい気持ちがあるのが分かる。*10〈泣けちゃう夜もあるヒーローだれもいつも強くないけど〉しかし、結果はうまくいかなかった人もいるようだ。〈All Right 僕らスーパーヒーローだれもが皆秘めるtwinkle POWER 少し涙しても強く信じたいな今ここがスタートライン〉けれど決意を持って突き進む「スーパーヒーロー」達。

youtu.be

この中学生活*11の統括的楽曲「参枚目のタフガキ」。この曲はUnderworldというバンドの「Born Slippy」という曲のオマージュ。曲のタイトルは「Born Slippy」が入っているアルバム『弐枚目のタフガキ』から。音は双方を知っている人からしたら笑ってしまうくらい似ている(笑)。しかし、ただの二番煎じのテクノソングではなく、アイドルポップとテクノを上手く融合させたテクノ・ポップとなっている。テクノが苦手な人でも聴きやすい仕上がりになってるので是非御一聴を。(動画は本家)

youtu.be

音楽的な意味でも今のエビ中はパクリじゃない。オマージュと呼べるレベルの作品を堂々と出せている。そういった意味でも統括的曲だと感じている。しかしそれだけでなく〈深夜アニメからの5時起き 一限目にプール授業 ぎゅうぎゅう電車の中熟睡 忘れ物のことも忘れる まあいっかで全部片付けろ バス乗り遅れて全速力 予習復習ゼロ期末テスト おじぎは振りかぶっていけ〉、〈参枚目のタフガキ 受けて立つぜハードパンチ 凹んだって凸るんだ お前ら負けんなもう一回〉と日常のミスなんて些細なこと。2枚目でなく3枚目でいい。ただ全力で楽しんでこなせばいい。という強いメッセージをアルバムを通して感じる。

中学生活のすべて『穴空』

『金八』の中学生全開のハチャメチャ感。『ヱビクラシー』の楽曲の想い。『MUSiC』の音楽に向けた姿勢。

それぞれアルバムには唯一無二の良さがあるが、これまでに述べてきた『穴空』には学生生活の1年が詰まっている。メッセージ性も見え隠れし、”私立恵比寿中学”というグループにとってこれ以上ないコンセプトアルバムだと私は感じる。曲やメンバー云々という話ではなく、”私立恵比寿中学”のアルバムの中で私は『穴空』が一番好きだ。


*1:数行しか書いてないけどね

*2:無秩序な状態

*3:シベリア少女鉄道土屋亮一

*4:岡村靖幸オマージュ?

*5:本来恋の曲ではないと思うがご都合主義ということで…

*6:ちなみに同じInterludeだが「埋めてあげたい(Interlude)」とは違い、こちらはグルーヴィな曲調が乗っており、今ではファミえんの常連曲となっている。

*7:実際ライヴではめちゃくちゃ盛り上げるけど、自分達が行く側になったらこうなりそう(笑)。

*8:ココナッツサブレのPVということもあるが

*9:きっとココナッツサブレ

*10:恋とかテストとかね

*11:アルバム全体を中学生活と考えています