Death To False Tanto

雑食な自称音楽好きが自己満でアルバムレビューなどをしていきます。ブログタイトルはWeezerから

私立恵比寿中学『playlist』は近未来から来たアルバム

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2019年12月18日に発売された6枚目のフル・アルバム『playlist』

今作も私立恵比寿中学のアルバムの特徴とも言ってもいい、豪華な作家陣*1で多種多様な楽曲で構成されたアルバムだ。本ブログではコンセプトや対象者などに着目してレビューしていこうと思う。

20年代を駆け抜けていった1枚

今作はタイトル通りミュージックプレイヤーで作成出来るプレイリストを意識して作られている。

今はサブスクで、自分のケータイで聴く時代。1曲1曲ダウンロードして聴くんじゃなくプレイリストで聴く時代だよね、ってところから“プレイリスト”というコンセプトがまずあって。

natalie.mu

そのためか、例年以上に様々な要素の楽曲が点在している。コンセプトを意識したためか、最初はアルバムとしての軸は正直弱いと感じた。

特に顕著に感じるのは5曲目の「I'll be here」からの流れだ。「I'll be here」はダークで落ち着いた印象の曲なのに対して、次の曲では激しい「PANDORA」が来る。そして80年代のシティ・ポップを彷彿とさせるアダルティな「シングルTONEでお願い」。更に続いて00年代のアイドルを思い出すようなPOPで明るい楽曲である「オメカシ・フィーバー」と続く。

これをコンセプト通りで良いと捉えるか、曲毎のテンションがバラバラで聴いてて何とも言えないという人で、自分の周りでは賛否が分かれた印象があった。

まず自分はApple Musicユーザーであり、アルバム単位で曲も聴くが、Favorites Mixというレコメンド機能*2を使った、週替わりに変わるプレイリストも利用している側面がある。その為、このコンセプト・アルバムを苦手意識無く聴くことができた。

サブスクリプション*3を利用してる人が増えてきた事実はあるとは言え、プレイリストを利用してないユーザーも少なくない。そのため、今作のような作品に違和感を覚えたのだろう。

ここに関しては、時代を先行し過ぎたのだと感じた。ただ今は、賛否が分かれていても、数年後に再評価される可能性を秘めたアルバムだとも感じた。

エビ中VS楽曲提供者

今作では明言はされていないが、6曲だけだが、軸となるメンバーが存在する曲がある。

2曲目の「SHAKE! SHAKE!」ではポルカドットスティングレイが楽曲を提供しており、ポルカっぽさのある楽曲になっている。軽快なギターカッティングになんちゃってラップを乗せたアッパーな1曲。この「SHAKE! SHAKE!」では、小林歌穂がキーとなった曲。

3曲目「愛のレンタル」では真山りかがフィーチャーされており、落ち着いたソウルフルなサウンドで愛をテーマにした歌詞でメロディ、歌詞ともに大人っぽさの詰まった1曲。楽曲提供はマカロニえんぴつがしており、これもまたマカロニえんぴつらしい1曲となっている。

youtu.be

続いて4曲目の「ジャンプ」は石崎ひゅーい作曲で、シンセと石崎ひゅーいらしいアコースティックギターの音から始まり、ヒリついた空気感が最初から伝わる。

この曲がアルバムのリード曲になると説明された

natalie.mu

と、真山りかがインタビュー中で述べている。曲中に〈心臓のドラマだ〉とあり、10周年を走り続けたエビ中にピッタリな1曲だと感じる。
また、サウンドは質素めながらアツい情熱を感じられるサウンドで、他のフィーチャー曲もイメージに合っているが、この曲もフィーチャーされている安本彩花のイメージに合った曲だと感じる。

youtu.be

5曲目の「I'll be here」では、iriが楽曲提供をしており、フィーチャーされた柏木ひなたが、安室奈美恵を敬愛しているのも相俟って、彼女にピッタリなR&Bソングとなっている。

6曲目「PANDORA」は、現時点でエビ中史上最速で最もキーが高い曲となっている。楽曲提供者がPABLOなだけあり、激しいラウド・サウンドなのだが、キーは高く、エビ中らしい歌い方のため、ジャンルレスなアイドルならではの1曲となっている。この曲は星名美怜がキーパーソンとなっており、〈ボーナスステージ〉が彼女にしか出せないような高音で歌われている。一聴する際は是非注目して聴いて欲しい。

youtu.be

8曲目「オメカシ・フィーバー」では中山莉子がフィーチャーされており、ハロプロの楽曲の作詞をよくしている児玉雨子が楽曲提供をしてる。そのためか、正統アイドルソングのような楽曲となっている。中山莉子のイントロのダンスが奇妙だが釘付けになること間違いないので、これもまた是非注目してみて欲しい。

youtu.be

豪華なアーティストが楽曲提供をしており、これでもかと言うくらい、提供者側の色を出してくる。前記したが、これまで以上に提供者側の色が強く感じるのはタイトルの「playlist」に即して、様々なアーティスト感を出したくて発注したのかもしれない。

しかし、それに負けじとエビ中エビ中たらしめる楽曲になっていて、どの曲も私立恵比寿中学の曲だと胸を張って誇れるそんなアルバムになっている。

最初は気付かなかったが、暗にフィーチャー曲を作ったのは、私立恵比寿中学の楽曲という色や意識を強めるために、フィーチャー曲を作ったのではないだろうか?

前提としてエビ中メンバー全体の歌唱力の向上や、己の歌い方を身につけたというのもあるが、そういった小さな意識の積み重ねで、楽曲提供者に飲まれない私立恵比寿中学らしさ”が生まれているのではないかと考える。

今後も私立恵比寿中学たらんことを。

メンバーの努力による歌唱力の向上、自分なりの歌い方の獲得など様々な要因による影響もあるが、私立恵比寿中学らしさ”はフィーチャーされた曲があることによって生まれていると前述した。しかし、何よりも私立恵比寿中学らしさ”が詰まった楽曲がある。それは「HISTORY」という曲だ。

曲調は王道POPSのような曲調で、歌詞は少々拙さを感じるような文章。しかし、私立恵比寿中学を知れば知るほど、なんだか胸に響く歌詞となっている。

何故拙いながらも胸に響く歌詞になっているかと言うと、エビ中のメンバー全員で歌詞を書いているからだ。

アルバム制作の会議のときに「10周年の記念曲を作りたい」という提案があって、みんなでアイデアを出し合っている中で決まりました。

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10周年の記念曲という位置付けなので、10年分の年輪が詰まっており、何度も聴いているうちに、EP*4などで、目にしていた光景などが浮かんでくる。

〈かかとが擦り切れてなんか臭いけど捨てられないんだよな10年前のスニーカー〉

など彼女達のエビ中としての日常を切り取った一文もあれば、サビでは

〈出逢ってくれてありがとう 見つけてくれてありがとう 神様は見てくれなくても 気付いてくれている人がいる〉

と、ファミリー*5とメンバーとの関係を述べるエビ中愛の詰まった一文を歌っている。

シンプルでストレートに等身大の想いを歌に乗せて届ける。不器用だけど愛に溢れた私立恵比寿中学らしさ”の詰まったそんな1曲だ。

作りたいな。心解くミュージック

同年2019年にMUSiCフェスという主に楽曲提供をしたアーティストを呼び、エビ中主催のフェスを行った。*6

www.ebifes.com

参加アーティストと共に楽曲提供曲をコラボしたり、アーティストがセルフカバーをしたりなどといった光景が見られたフェスだった。

MUSiCフェスの状況や、今作の楽曲提供者らしさ全開な楽曲群などから、近年のエビ中はアイドルファンだけでなく、楽曲提供者などの様々な層のファンを獲得しようとしている様子が伺える。

そう思ったのにはもう一つ理由があり、『playlist』の楽曲群は基本的にはランダムのような配置をしているようにも感じるが、一番最後の曲である「トレンディガール」の位置には特に意味があるように感じる。

www.youtube.com

「トレンディガール」の歌詞にこのような一文がある。

〈最終的には牙を剥くのかもしれない人たちにも届けるようなものを私たち作るんだから〉

偏見かもしれないが、アイドルを聴かない人はアイドルが嫌いという側面があると感じている。*7そんな風潮がある中、この曲を最後に置くことで、「アイドルを聴かない層にも私立恵比寿中学の音楽を絶対届かせるぞ」という強い意思を感じる。

トレンドつかみとれ天下一

コンセプト自体は時代を予見して、先行きし過ぎたかもしれないが、アルバムとしては、エビ中という軸を残しつつ『playlist』らしい様々な楽曲提供者を彷彿とするような楽曲群。

サブドルというスタンスで、サブカルチャー好きな大人をメインターゲットにしていたエビ中だったが、今話題のアーティストに楽曲を提供してもらうことによって、段々とフレッシュで若い人達をメインターゲットにシフトしていっているのかもしれない。

エビ中への窓口を広げ、様々な層にも届けるような工夫が幾重にも施された今作。しかし、既存ファンを蔑ろにするわけではなく、エビ中の進化、そして「HISTORY」によるファミリーに対する想いなども感じられる。

今後、『playlist』を聴いて「エビ中現場に来たい!」と思い、実際に足を運ぶ人が増えることを切に願う。

www.shiritsuebichu.jp

最後に。

ももクロのファンが、このアルバムを手に取り、絶賛したブログを書いている。

rksam-urys.hatenablog.com

私立恵比寿中学の言葉を借りて言わせて欲しい。「出逢ってくれてありがとう。見つけてくれてありがとう。」と。

*1:川谷絵音(from ゲスの極み乙女。 indigo la End ジェニーハイ)石崎ひゅーい、ポルカドットスティングレイ、ビッケブランカ

*2:普段聴いてる曲などから機械的に楽曲を推薦する機能

*3:定額制音楽配信サービス

*4:私立恵比寿中学のライブツアーの裏側に密着したドキュメンタリーシリーズ「EVERYTHING POINT」の略称

*5:エビ中のファンの呼称

*6:参加アーティストは下記のURLから

*7:事実自分がアイドルを聴かなかった時代はアイドルが嫌いだった